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「アクチビンAによるアフリカツメガエル胚未分化細胞からの
in vitroでの顎顔面軟骨の誘導」
広島大学大学院歯学研究科歯学臨床系(口腔外科学第一)
福井康人氏 |
第1章 緒言
Xenopusの受精卵は,卵割を繰り返して桑実胚と呼ばれるステージに達する.この時期の胚は,予定外胚葉にあたる動物半球と予定内胚葉にあたる植物半球からなり,予定内胚葉域の細胞は,その上に位置する赤道面付近の帯域の細胞に対して,中胚葉誘導と呼ばれる分化誘導を起こす.中胚葉誘導を受けた細胞は,形成体(オーガナイザー)となり,原腸陥入運動を起こして胚内へと移動運動を行う.さらに,内胚葉によって誘導された,将来脊索に分化する細胞を中心とした領域は,原腸陥入しながら表面を覆っている予定外胚葉に対して神経誘導を起こす.したがって,中胚葉誘導は単に中胚葉という組織の分化のために必要であるだけではなく,発生初期における形態形成に不可欠な分子シグナルを発する場の形成に必要なステップであると考えられている(図1).
1980年代の半ばから,fibroblast growth factor(FGF)やtransforming growth factor-β(TGF-β)など,中胚葉誘導能を有する幾つかの誘導因子が同定されてきた.1990年にAsashimaらは、骨髄性白血病細胞の培養上清より分離,精製した中胚葉誘導因子が,卵胞刺激ホルモンの分泌促進因子としても知られていたアクチビンAであることを明らかにした.未分化予定外胚葉に相当するアニマルキャップ(AC)を用いるアニマルキャップアッセイ(ACA)におけるアクチビンAの作用は,明確に濃度依存性を示し,濃度が高くなるに従ってより背側の中胚葉を誘導する.0.3〜1.0
ng/mlではACの内部には血球,体腔上皮,間充織が,5〜10ng/mlでは筋肉が,50〜100ng/mlにおいては,最も背側の中胚葉である脊索が分化してくる.また,未処理のACは分化せずに表皮様細胞の塊(不整形表皮)となる.これらアクチビンにより誘導された組織は組織学的にも分子生物学的にも正常胚でみられる組織と同じである.さらにアクチビンAの特徴として,オーガナイザー活性を有することがあげられる.Ariizumiらは,両生類のACを一定時間アクチビン処理し,異なった時間AC非存在下で培養した後に再び別のAC二枚で挟み込む,アニマルキャップサンドイッチ培養法(AC-SA)を用いて,アクチビンA処理ACがアクチビンAの濃度と処理時間に依存して頭部,胴尾部のオーガナイザー活性を有することを明らかにした.また,ACAにおいて,アクチビンAの標的遺伝子の予定外胚葉領域における発現の時間的推移は,正常胚におけるそれと同じであることも明らかにされている.これらから,アクチビンAと未分化予定外胚葉領域を用いることにより,正常胚における発生をin
vitroで再現することが出来ると推測される.
一方,顎顔面の軟骨形成において,中胚葉もしくは神経提由来の未分化間葉系細胞は,咽頭弓に移動し,軟骨形成予定領域で凝集塊を形成する.凝集塊を形成した未分化間葉系細胞は,U型,\型コラーゲンおよびアグリカンなどの細胞外基質を産生する軟骨細胞に分化し,最終的にinfrarostral軟骨,メッケル軟骨,口蓋方骨,鰓弓軟骨などの成熟軟骨組織を形成する.
本研究では,Xenopus胚AC-SAを用いてin vitroにて顎顔面軟骨を誘導することを試み, 誘導した軟骨原基に対し,組織学的および分子生物学的な解析を行った.
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図2. アニマルキャップサンドイッチ培養法
st.9胚の未分化予定外胚葉領域(アニマルキャップ)を0.4×0.4mm大で切り出し,アクチビンA 100ng/mlを含むSS中で1時間処理した後,アクチビンAを含まないSS中で0,1,2,3,4時間前培養した.前培養時間終了後,別のst.9胚より切り出した0.8×0.8mm大のアクチビン未処理のアニマルキャップ2枚を用いて挟み込み,サンドイッチ培養を行った.
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第2章 材料および方法
第1節 サンドイッチ培養法における組織誘導の各条件下での検討
受精卵の採取は,実験開始約16時間前に成熟したXenopus雌雄にゴナドトロピンを600IU皮下注射し,自然交配させて行った.得られた受精卵は,pH
7.8に調節した4.5%L-システイン塩酸塩水和物を含むSteinberg氏液(SS)中で脱ゼリーをした後,室温でステージ9(st.9,胞胚期)になるまで発生を進めた.AC-SA(図2)は,図に示す方法で行い,
0.1% BSAを含むSSで満たした96穴プレートにて20℃で4日間もしくは7日間培養し,10%中性緩衝ホルマリン液にて固定した.なお,培養期間7日のexplantは,4日目に96穴プレートから24穴プレートに移し換えてさらに3日間培養した.
固定した組織は,脱水,脱脂,パラフィン包埋後,厚さ6μmの連続切片を作成し,PAS/アルシアンブルー重染色法を用いて染色し,組織誘導について検討した.
第2節 Explantにおける軟骨の分化マーカーであるU型コラーゲン発現の免疫組織学的検討
第1節に準じて,ACを切り出し,アクチビンA処理を1時間行った.続いて,前培養時間1時間の条件でSS中にて前培養後,未処理AC二枚で挟み込み96穴プレートにて20℃で4,7,10,14日間,SS中で培養した.なお,培養期間7,10,14日群では,培養4日目で第1節同様24穴プレートに移し換えて,計7,10,14日間培養した.Explantの固定は-20℃の冷アセトンで行った.脱脂後,パラフィン包埋し,6μmの連続切片を作製した.次に連続切片を二つのグループに分け,一方に対しPAS/アルシアンブルー重染色を行い組織像を確認した.他方に対して,mouse
anti-collagen typeU抗体を用いて免疫組織染色を行った.
第3節 Reverse Transcription-PCR(RT-PCR)法による各遺伝子発現の検討
RT-PCRに先立ち,頭部,胴尾部に分割した正常胚,正常胚全体およびexplantからtotal RNAの抽出を行った.次に,抽出したtotal
RNAをDNaseTを用いて前処理した.逆転写反応は,25℃ 10分間,42℃ 50分間,70℃ 15分間incubateしてcDNAを合成した.
PCR反応は,変性反応95℃ 1分,アニーリングをXenopus Distal-less 4(X-dll4),typeUcollagen(Col2),Xenopus
Cartilage homeoprotein 1(Cart-1),ornithine
decarboxylase(ODC)では55℃ 30秒,goosecoid(gsc)では61℃ 1分の条件で行い,伸長反応72℃
30秒とし,これを1 cycleとしてX-dll4,Col2,ODC では25 cycle,Cart-1では28 cycle,gsc
では30 cycle行い,PCR産物を得た.
今回,用いた遺伝子の特異的プライマーは表1のごとく設計した.
第4節 In situ hybridization(ISH)による各遺伝子の局在の検討
1)cRNAプローブの作製
ISHに先立ち,X-dll4,Col2,Cart-1およびgscのプラスミドDNAを用いてcRNAプローブを作製した.ISHに用いる正常胚およびexplant組織は,4%パラホルムアルデヒドにて4℃下24時間固定後,脱水,脱脂,パラフィン包埋後,10μmの切片を作製した.Col2以外のサンプルは,脱パラフィン後,アルシアンブルーにて染色した.Hybridizationは,DIG-labeled
Col2, Cart-1, gsc cRNA probe,fluorescein-labeled X-dll4 cRNA probeを68℃,16時間で行った.DIG標識したCol2のシグナルは,NBT/BCIPを用いて検出した.また,Col2を除く正常胚のサンプルは,標識抗DIG抗体,ビオチン-チラミド,アルカリフォスファターゼ標識ストレプトアビジン,5%ポリビニルアルコール含有NBT/BCIPを用いてDIGのシグナルを検出した.さらにexplantでは,DIGはチラミド-cyanine
3で,fluoresceinは, チラミド-fluoresceinを用いて検出した.
第3章 結果
1. サンドイッチ培養法における組織誘導の各条件下での検討
アクチビンA (100ng/ml)で1時間処理後,SS中での前培養時間を0,1,2,3,4時間としてAC-SAを行い,各条件下で誘導された組織を比較検討した.培養期間4日では,前培養時間が長いほどセメント腺,眼包などの前方頭部組織が誘導される傾向が確認された(図3).培養期間7日では,4日と同様に,前培養時間が長いほど前方頭部組織が誘導される傾向を認めた(図4).誘導された組織は,培養期間4日では,未分化間葉系細胞の凝集塊は観察されたものの,アルシアンブルー陽性軟骨原基は,検出することができなかった(図5A).培養期間7日では,アルシアンブルー陽性の軟骨様細胞や軟骨性組織がexplant内に誘導されていた(図5B).その誘導率は,前培養時間が1時間の条件で47.8%であり,最も高率を示した.従って,以下の実験には,ACをアクチビンA処理1時間,前培養時間1時間の条件でAC-SA行った.
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図5. explantのPAS/アルシアンブルー重染色像
(A):培養期間4日のexplantのPAS/アルシアンブルー重染色像(B):培養期間7日のexplantのPAS/アルシアンブルー重染色像
(bar: 50μm)
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2. ExplantにおけるU型コラーゲン発現の免疫組織学的検討
軟骨細胞が特異的に発現する細胞外基質であるU型コラーゲン(Col2)の ,誘導された軟骨原基における発現を免疫組織学的に検討した.培養期間4日では,アルシアンブルー陽性の間葉系細胞凝集塊の中心部の細胞にCol2の発現を認めた(図6).培養期間7日では,アルシアンブルー陽性の未成熟軟骨細胞に強いCol2の発現を認め,さらに軟骨原基周辺に見られる未分化間葉系細胞にもCol2の発現を認めた(図7).
培養期間10日では,軟骨原基周囲の軟骨膜様の細胞にCol2の発現を認めたものの,分化の進んだ軟骨原基中心部の軟骨細胞にはCol2の発現はわずかであった(図8).培養期間14日では,成熟軟骨細胞は陽性を示さず,軟骨膜様細胞がわずかに陽性反応を示した(図9).
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図6. 免疫組織染色による培養期間4日のexplantにおけるtypeUcollagen発現(bar:
50μm)
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図7. 免疫組織染色による培養期間7日のexplantにおけるtypeUcollagen発現(bar:
50μm)
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図8. 免疫組織染色による培養期間10日のexplantにおけるtypeUcollagen発現(bar:
50μm)
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図9. 免疫組織染色による培養期間14日のexplantにおけるtypeUcollagen発現(bar:
50μm)
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3. RT-PCR法による各遺伝子発現の検討
X-dll4,Col2,Cart-1,gsc,ODCのexplantおよび正常胚(頭部,胴尾部,全体)における発現をRT-PCR法を用いて検討した.X-dll4
mRNAは,正常胚では,st.22-28,st.35,st.41の頭部に限局した発現を確めた(図10).また,explantでは,培養期間1?14日で発現を認めた(図11).Col2
mRNAは,正常胚では,st.22-28,st.35,st.41の主として頭部に発現を認め,特にst.35の頭部で強く発現していた(図10).Explantでは,培養2日から発現しており,培養4日で最も強く発現し,その後低下した(図11).Cart-1
mRNA は,正常胚では,頭部に発現は限局しており,st.22-28の頭部で発現を認め,st.35までに上昇し,その後st.41では低下した(図10).Explantでは,培養2日から発現を認め,4日で最も発現が上昇し,その後低下した(図11).
gsc mRNAは,正常胚では,発生初期のst.10および,st.35,st.41の頭部に限局して弱い発現を認めた(図10).Explantでは,培養0日から発現を認め,3日で最も発現は上昇し,それ以降低下した(図11).
ODC の発現はすべての正常胚,explantに発現を認め,培養期間を通して発現量は変化しなかった(図10,11).
4. ISHによる各遺伝子の局在の検討
DIG標識Col2プローブを用いて,explantおよび正常胚におけるCol2 mRNA の局在をISHを用いて検討した.その結果,st.42の正常胚では,顎顔面部軟骨や脊索前方部に発現を認めた(図12A,B).また,培養期間4日のexplantでは,未成熟軟骨細胞にCol2
mRNAの発現を認め(図12C),7日では,軟骨細胞に発現を認めた(図12D).Cart-1
およびX-dll4 のmRNAの局在は,explantでは,DIG標識Cart-1プローブとフルオレセイン標識X-dll4プローブで二重染色してその局在を検討し,正常胚ではそれぞれのプローブを用いて別々にその局在を検討した.その結果,st.41の正常胚では,Cart-1
mRNAは,嗅覚器,infrarostral軟骨,口蓋方骨,メッケル軟骨,鰓弓軟骨,脊索に発現を認め(図13A),X-dll4
mRNAは,嗅覚器,セメント腺,infrarostral軟骨,ethmoidtrabecular軟骨,咽頭上皮に強く発現し,メッケル軟骨に弱い発現を認めた(図13B).Explantでは,Cart-1
mRNA(red)の弱い発現を軟骨細胞やその周囲の間葉系細胞に認めた(図13D).一方,X-dll4 mRNA(green)の発現は,explant全体に認められた(図13D).また,explantにおけるgsc
mRNAの発現にはCart-1,X-dll4の ISHで用いたサンプルと同じサンプルを用いて検討した.その結果,gsc mRNAの発現は,st.41の正常胚では,infrarostral軟骨やメッケル軟骨の未成熟軟骨細胞や間葉系細胞凝集塊に認めた(図14A).また,explantでは,アルシアンブルー陽性の未成熟軟骨細胞やその周囲の間葉系細胞に強い発現を認めた(図14C).
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第4章 考察
今までに両生類胚のACとアクチビンAを用いてin vitroで種々の臓器や器官が形成されることが明らかとなってきているが,顎顔面の軟骨形成に関しては未だ報告されていなかった.
本研究において,AC-SAの培養期間を従来の4日から7日に延長することで,アルシアンブルー陽性軟骨原基を誘導することができた.これは,正常胚では軟骨形成が受精後4日では開始されておらず,軟骨形成が始まるst.42が受精後5日に相当するために,AC-SAにおいても従来の4日の培養期間では間葉系細胞の凝集塊は確認されたものの,アルシアンブルー陽性の軟骨細胞を確認できなかったと考えられる.その誘導率に関しては,前培養時間1時間の条件で最も高く47.8%であった.また,前培養時間をさらに延長すると,眼包,セメント腺などの前方頭部組織が誘導される傾向にあった.これらは,AC-SAにおいて,前培養時間に依存して頭部から胴尾部の構造が誘導されることを再確認するものであり,前培養時間1時間で最も高率に顎顔面に相当する部位を誘導する遺伝子発現が生じ,さらに前培養時間を延長すると,より前方頭部組織を誘導する遺伝子発現が生じるためであると考えられる.
次に,軟骨分化の特徴的なマーカーであるCol2のexplantにおける発現を免疫組織学的に検討した結果,explant内で最初に未分化間葉系細胞が凝集塊を形成し,その後,Col2を発現する軟骨様細胞や軟骨性組織が誘導された.さらに培養期間を延ばすと,軟骨原基中心部の成熟軟骨細胞にはCol2の発現を殆ど検出できなくなり,軟骨原基周囲の軟骨膜様の細胞のみにその発現を限局して認めた.一方,正常胚におけるCol2の発現パターンもexplantと一致した(未掲載データ).また,explantにおけるRT-PCRによる解析においてもCol2
mRNAの発現は,培養期間4〜7日で発現量が上昇し,10日から減少したことから,explantにおける軟骨形成が正常胚と同様な分化様式をとり,explantにおいても軟骨細胞が肥大軟骨の状態まで分化したと考えられた.
ホメオドメインを含む遺伝子であるCart-1は,マウスやラットの胎生期の発育において,将来軟骨形成が生じる頭部中胚葉,側方中胚葉および肢牙に強く発現し,その発現は,軟骨形成初期の前駆軟骨細胞の凝集塊や軟骨細胞に強く,成熟軟骨では,発現が低下する.さらに,同遺伝子のノックアウトマウスでは,頭蓋冠の欠損や上下顎,頬骨の矮小化を示すことから,マウスやラットにおいて,Cart-1は軟骨分化に重要な役割を担う遺伝子であると考えられているが,XenopusにおけるCart-1の発現時期や発現部位等に関する報告はなかった.本研究で,正常胚のRT-PCRにおいてCart-1
mRNAの発現が頭部に限局しており,また,ISHにおいてもその発現を顎顔面軟骨やその周囲の間葉系細胞,脊索前方部に限局して認めたことは,ラットやマウスにおける結果と一致していると考えられる.さらに,explantでは,Cart-1の発現は培養期間4日でピークを示した.これは,凝集塊を形成する間葉系細胞が軟骨細胞への分化を開始する時期に相当し,ラットにおける軟骨形成初期に発現量が上昇するという報告と一致する.また,ISHにおいてもその発現を軟骨原基と周囲の間葉系細胞に認めた.従って,Xenopusにおいても齧歯類と同様にCart-1は間葉系細胞が軟骨細胞に分化する際に働き,explantでも軟骨に分化する際のカスケードが機能していると考えられる.
ホメオボックス遺伝子であるX-dll4は,ショウジョウバエのDistal-lessのホモログである.正常胚において,X-dll4は,前方外胚葉由来組織,すなわち前脳腹側,鰓弓軟骨,頭蓋部神経提細胞,セメント腺に発現している.また,X-dll4のマウスのホモログであるDistal-less
2(Dlx-2)は,前脳,下顎,上顎原基,歯ろ胞や口腔上皮などに発現しており,Dlx-2のノックアウトマウスは下顎骨弓,舌骨弓由来の頭部骨格の欠損を示す.これらよりX-dll4は顎顔面領域の発育において重要な遺伝子であると考えられている.本研究にて,正常胚では,各ステージの頭部領域にX-dll4の発現を認めたが,胴尾部には発現を認めなかった.また,ISHでは,嗅覚器,セメント腺,咽頭上皮,腹側軟骨に発現を認めた.また,explantでは,RT-PCRで発現を認め,ISHでは,explant全体に発現を認めた.これらより,explant内部に誘導された組織や器官が,正常胚における頭部領域に相当するものであることを示していると考えられる.
ホメオボックス遺伝子であるgscは,中胚葉誘導の間にアクチビンAによって直接活性化される.また,gscは,尾芽期のXenopusの幼生では,頭部腹側に限局して発現する.また,マウスの胎生後期では,頭部,肢牙などに発現する.さらにgscのノックアウトマウスは,鼻腔,内耳の異常や下顎骨の発育不全,下顎骨周囲および舌の筋肉の形成不全や発育不全を示すことから,gscは顎顔面領域の形成に重要な遺伝子であると考えられている.本研究で,ISHの結果,st.41のXenopusの幼生において,下顎部のinfrarostral軟骨およびメッケル軟骨に限局してgsc
mRNAの発現を認め,またexplantでは,軟骨原基とその周囲の間葉系細胞にその発現を認めた.したがって,explant内に頭部腹側中胚葉が誘導され,間葉系細胞が下顎部を含む顎顔面軟骨に相当する部位の軟骨に分化したと考えられる.
第5章 結語
今回,Xenopus胚のACとアクチビンAを用いて,前方腹側間葉系細胞に由来する下顎部に相当すると考えられる軟骨をin vitroにて誘導することができた.本アッセイ系は,マウスES細胞から軟骨を誘導する系や,ヒトの骨髄細胞由来の間葉系幹細胞から軟骨細胞を誘導する系などとは異なり,細胞分化だけではなく,発生におけるパターン形成をも再現し,顎顔面領域に相当すると思われる軟骨,さらには歯牙をも選択的に誘導できると考えられる.したがって,本系を用いることにより今後,これまでとは違った概念の再生医療を展開できると考えられる.
本研究の一部はProc. Natl. Acad. Sci. U S A vol.99 No.24:15474-15479, 2002.
Furue et al.に発表した.
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