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■日本工業新聞創刊70周年特別賞
「Give Me Light! アイデアの実現を目指して」
徳山工業高等専門学校機械電気工学科3年
幾度明菜氏  

 独創性が求められる時代が訪れ、私たちは、アイデアに対してますます敏感になっている。このような時代を生き抜くためには、アイデアをひねり出す力、ひいてはアイデアを実現する力が必要不可欠である。そこで私は、より多くのアイデアが広く世に認められ、実現されることを願い、実際のものづくりを通して感じたアイデアを形にすることの有益さを述べる。題材とするのは、学校の授業、創造製作の時間に作った光センサー付目覚し時計であるが、本論では、まず、アイデアが生まれるまでの過程を検討し、次に、実際の製作がアイデア実現にとって重要であることを論ずる。本論が最終的に目指すのはアイデアの実現であり、この小論がアイデア実現に役立つことを願う。

[T.アイデアが生まれるまで]
1.アイデアの始まり


 「アイデアが浮かばない」ことで苦しんだ経験は、おそらく誰にでもあるだろう。たとえば、学内のアイデアコンテストなどで。しかも、期限があるから、アイデアが浮かんで来るのを待っている場合ではない。そこで私は、何とかアイデアをひねり出そうと試みたのである。

 私は目覚し時計にこだわっていた。その原因となる事件がその頃起こったのかもしれないし、単に目覚し時計にはまっていたのかもしれない。そのあたりは定かではないが、とにかく、「誰でも起きられる目覚し時計」があればいいと思ったのである。このようなものがあればいいな、と思った人も少なくないだろう。ところで、この、「こんなものがあればいいな」というのがアイデアの出発点である。必要は発明の母とはよく言ったもので、暮らしの中の不便さに着目すれば、アイデアのネタは案外身近なところにあるものだ。

 しかし、これらは、あくまでも始まりに過ぎず、「こんなものがあればいいな」ということなら、腐るほど思いつく。飲むとアイデアが浮かんでくる薬といった、ド○えもんのポケットから出てきそうなものから、絶対に焦げ付かない鍋など実用的なものまで、それこそ山ほど。そして、それらの多くは、そのまま放っておかれ、アイデアとして完成することはまれだ。だから、「アイデアが浮かばない」のである。

 その状態から何とか脱出しようと、私に白羽の矢を立てられたのが「誰でも起きられる目覚し時計」だった。これをただの思い付きでは終わらせない、アイデアとして完成させてやろうじゃないか、そう思った時、私は創造活動への一歩を踏み出していた。

2.問題点の認識とアイデアの方向付け

 従来の目覚し時計の問題点を一言で言えば、完全に目が覚めていなくても簡単に止められる仕組みだ。私は一回目が覚めるとまた眠ってしまうことはほとんどない。私は普通の目覚し時計できちんと起きられる人間だ――そう、私は。しかし、世の中には、人に起こしてもらわないと起きられない人たちがいる。そして彼もそうだった。加えて、彼女たちもそうだった。このような困った人たちを起こすのは、大抵の場合、家族の役目である。つまり、私は、父や姉や妹のために、正直に言えば母に「起こしてきて」と頼まれてうんざりする朝と別れを告げるために、従来の目覚し時計の問題点を明らかにし、「誰でも起きられる目覚し時計」を作る必要があった。

 もちろん、それまでに何の努力もしなかったわけではない。姉は向上心のある人だったので、ある日、時計を布団から離して置いておくという方法を試みた。翌朝、目を覚ましたのは、隣の部屋で寝ていた私である。そして当の本人はすやすやと寝ていた。また、ある日、少し複雑な操作で止めなければ数分後にまた鳴り出すという代物を買ってきた。少し複雑な操作と言っても、ボタンを押しながら回すといったレベルのものだ。慣れれば半分寝ていても容易に止められることは明らかだ。案の定、これも失敗に終わった。

 つまり、従来品のベルの音を大きくしたり、少し止め方を複雑にしたりするのでは不十分なのである。効果を得るためには、新しい方向からのアプローチが必要だ。このケースでは、まず、音を鳴らす代わりに痛みを与えるなどして目を覚まさせる方法と、音を止める段階で目を覚まさせる方法が考えられる。前者は構造が難しくなりそうだという理由から、私は後者を選んだ。

 その中でさらに方法を分類していき、「朝起きてする動作と音を止める動作を一緒にすればいいのではないか」と思いついた。具体的な解決策は提案されていないが、ここでアイデアの方向が決定された。問題点をどのような方法で解決するか、その方向の決定は、アイデアを生むための創造活動の中で重要な部分である。もし、私が、音以外の覚醒を促す要因を用いて問題を解決しようとしていたら、全く別のアイデアが生まれていただろう。

3.経験と知識の必要性

 最終的には、光センサーを敷布団の下に敷いて寝、朝、布団をはぐると音が鳴り止むという光センサー付目覚し時計(私はこれを『Give Me Light』と命名した)のアイデアが完成した(図1参照)。朝起きてする動作として布団をはぐることを選んだのにはいくつかの理由がある。

 第一に、完全に目を覚ますには、布団から出ることが望ましいと思ったからだ。先に述べた、時計を遠くに置いておくという方法も、布団の中という心地よい空間から抜け出すことで、目は覚めているが布団から出られない、という状況に陥ることを防いでいる。しかし、布団はまだ、眠りの世界へ来いと誘惑している。布団から出た後、さらに布団をはぐることによって二度寝が出来ない環境を作ろうというのが光センサー付目覚し時計のねらいだ。このアイデアのヒントとなったのは、子供の頃、父を起こした経験である。上に乗っかったり、耳元で叫んでみたりと、色々試したが、一番効果があったのが「必殺布団はぐり」(布団をはぐるという方法)だった。このように、過去の経験がアイデアを完成させる過程で大きなヒントになることはよくあることだ。

 もう一つの大きな理由としては、光センサーを使うことを思いついたことが挙げられる。PIC(コンピュータの周辺機器の接続部分を制御するために開発された「マイクロコントローラ」と呼ばれる領域のIC。プログラムで動く)を使えば、光センサーからの信号に応じてブザーを制御できるということを知らなければこのアイデアは生まれない。持っている知識が少ないと、アイデア完成の段階で、早まって実現不可能だという判断を下しかねない、ということだ。例えば、もし、私が光センサーというものを知らなかったら、畳、またはベッドと敷布団の両方に金属片をつけ、ブザーのスイッチにするというような構造を考えていたかもしれない。これは、あまり賢い方法とは言えないし、実際に作ってみたいとも思わない。アイデアの方向を決定するところまで出来ていてアイデアを完成させられないのは、あと数個で巨大ドミノ完成という時に地震に見舞われるようなものだ。ただし、地震は自分の意思ではどうにもならないが、アイデア完成の段階で断念することは、広い知識を身につけることによって防げる。アイデアはひらめきだ、とは言っても、最後に役に立つのは、結局、知識なのである。

4.アイデアを生むためのポイント

 このようにして光センサー付目覚し時計のアイデアは生まれた。アイデアを生むための創造活動において重要なことを以下にまとめる。まず、提示された問題の改善すべき点を明らかにする。「こんなものがあればいいな」と思うのは何か不具合があるからで、それについて、どこに問題があり、どこを改善すればよいのかを明確にする。

 次に、問題点をどのように解決するのかを検討する。この時に、多方面からのアプローチを考えることが特に重要であると私は思う。アイデアの方向を定めることにより、次の、具体的な解決方法を探す作業がずっと楽になる。一方で、アイデアの方向を定めることは、アイデアの幅を狭めることにもなるので、あらゆる方向を考えておくことが必要である。それが多方面からのアプローチを考えるということであり、私は、この作業がうまくできればアイデアの幅が広がると確信している。この作業は一見大変そうだが、実際にやってみるとパズルを解くようで案外おもしろいので、ぜひ試して欲しい。
また、アイデア完成の段階(具体的な解決方法を探す段階)で必要となるのは、やはり経験と知識であり、創造力が求められる時代、私たちは、同時に経験や知識も求められているように感じる。私たち学生は、創造力を磨くためにも、授業を熱心に受け、技術の習得に励むべきだと改めて感じた。

[U.製作を通して得られるもの]
1.アイデアを形にすることの目的


 完成したアイデアは実現の可能性をはらんでいる。しかし、本当に実現されなければ真の意味で創造力を発揮したとは言い難い。アイデアによっては、実現するために莫大な時間や費用、高度な技術を要するものもあるだろう。そのようなアイデアを実現するためには技術的、経済的な他者の協力が必要である。つまり、いかにして他者に自分のアイデアを認めてもらうか、ということが重要である。私は、それを可能にするためには、製作を通してアイデアを目に見える形にすることが必要だと思う。アイデアという実態のないものを他者に理解してもらうには、それを形にすることが重要だと、製作を通して改めて感じた。また、製作を通して得られるその他の利点についても触れていきたい。

 製作に当たって参考にしたのは、『PIC活用ガイドブック』(後閑哲也・著 技術評論社)である。PICで制御された時計に、光センサーからの入力という要素を加えた。以下に、光センサー付目覚し時計の製作過程と、そこから得られたものを示すが、これらはあくまでも製作を通して得られるものの一部であり、アイデアを形にすることは計り知れないほど多くの副産物を生む、と私は考えている。

2.目に見えることの効果

 まず、アセンブラ言語の勉強から始めた。命令を一通り勉強した後で、時計のプログラムの解読に取りかかった。プログラムをプリントアウトした時、その量の多さに嫌気が差した。全部解読し終えたとき、自分の頭脳より根性に感謝したくらいだ。命令の勉強とプログラムの解読と、難しかったのはプログラムの解読であるが、実際にそのプログラムで時計が動いていると思えばやりがいがあったし、何より、自分が何をしているのかがよく分かった。個々の命令とプログラムとの関係をたとえるなら、数学や物理における公式と問題の関係、あるいは、英語における単語と本文の関係だと言えるかもしれない。私にとっては、個々の命令はやや抽象的なもので、全体のプログラムは形を持つものであった。   

 しかし、それはあくまでも感覚的なもので、実際は、プログラムの制御内容は目に見えず、頭の中でイメージ化することが必要だ。そのイメージ化が上手く出来なかったのがスイッチの制御部分である。個々の命令の意味は分かっても、全体としてどういう動作をするのかがどうしても理解できなかった。そこで、私が何をしたかというと、そのプログラムをPICにやいて、後に作った基板にセットして適当にスイッチを押してみたのである。PICがどのような動作をしているかは分からなくても、どのスイッチを押すとどのような結果が得られるかということを目で確認できる。その上でもう一度プログラムを見直すことで、私はプログラムを理解することが出来た。

 この時に私が感じたのは、やはり、目に見えるもののほうが理解しやすい、ということである。プログラムだけよりも、実際にそのプログラムで動いているものがあったほうが理解しやすいのと同様に、アイデアだけよりも、実物があったほうが理解しやすいことは明らかである。アイデアを目に見える形にすること、それが製作の第一の目的だ。

3.他者への説明とアイデアの明確化

 次に、基板を作った。本の回路図どおりに部品を配置し、PICの空いている足に光センサーを付ければいいのだが、私は、それすらも独りでは出来ないほど電気の知識に乏しかった。つまり、光センサー付目覚し時計を製作するには私の技術力は足りなかった(図2参照)。技術力の不足という問題を解決してくださったのは先生だ。

図2 Give Me Lightの回路図
PIC活用ガイドブックの時計の回路をもとに作った。
変更点は、PORTA,4を入力に替えて光センサーをつけた点である。この回路図はフリーソフトを使って書いた努力の結晶。



 他者に自分の知らないことを教わりながら製作することは、勉強になるばかりでなく、相手に自分の意図するものを正確に知ってもらう必要が生じるため、改めて自分のアイデアを見つめ直すきっかけとなる。極端な話、自分のアイデアの価値を認めてもらえなければ協力が得られないかもしれない。アイデアにあいまいな点があったり、自分のアイデアに自信がなかったりする場合は、思うように製作が進まないが、他者に説明することで、アイデアがより明確なものとなるだろう。また、この協力者が思いもよらなかった指摘やアドバイスをしてくれることもある。アイデアの理解者が増えるのはよいことだ。自分の技術力の不足を補うために他者の協力を求めることの利点は、自身のアイデアをよく理解し、明確にする必要が生じること、他者とアイデアを分かち合うことにより、アイデアが深まり得ることだと言えるだろう。

4.アイデアに対するこだわりと執着心

 プログラムの作成では、何度もプログラムを変更してはPICにやいてみた。技術的には援助をお願いせざるを得なかったが、プログラムは自分の力で作るのだという意地に支えられ、迫る期限に追われてパソコンに向かう毎日――正月も例外ではなかった。PICの足が折れたりもした。試行錯誤を繰り返し、苦心の末にやっとプログラムが完成したとき、なんとも言えない達成感を味わうことが出来た。苦労して製作することの意味はここにもあると思う。

 自分のアイデアをなんとか形にしようと努力する中で、こだわりや自分のアイデアに対する執着心が生まれてくる。そして、少なからず自信もつく。こんなに苦労してまで作る価値のないアイデアだと思えば、途中で止めているはずだからだ。自分のアイデアに自信を持つためにも、実際に作ってみることは重要だと思うのである。先に述べたように、他者の助けを借りることも大切であるが、こだわるべき部分は、多少無理をしても頑張ってみるべきである。

5.製作により深まるアイデア

 最後に残ったのは基板やブザーを収納するカバーの作製である。カバーは時計の機能とは直接関係ないが、やはり、見た目もよいに越したことはない。最初は二つのステンレスボールを組み合わせたモグラ形のものを作っていたのだが、電気を通すのであまりよくないし(中に基板を入れるので、基板とステンレスボールが接触しないように気をつけなければいけない)、加工も大変だから変えたほうがよいというアドバイスをいただき、枕にディスプレイを埋め込む形が、変わっていて面白いと思いついた。

 100円ショップに何度も足を運び――これは、実際に使えそうな材料を見ることにより、イメージを膨らませるためである――悩んだ末に決めたカバーを変更するのは、正直、あまり気が進まなかった。しかし、実際に作ってみると、基板ごと枕に埋め込んだためブザーが耳に近くなった、枕であるゆえに従来の目覚し時計のように投げ飛ばす心配がない(漫画の登場人物のように、目覚し時計を投げ飛ばして壊す人が実在するのかどうかは知らないが)、という思いもよらなかった利点が生まれた。

 実際に製作していなかったら、カバーを変更することもなく、何の変哲もないもので終わっていただろう。製作の持つ利点は、製作途中でアイデアが発展する可能性があるという点である。だんだんとアイデアが形になってきて、視覚からの情報が私たちの創造力を刺激し、アイデアは、より豊かになっていくだろう。

 また、カバーの製作でコスト意識も生まれた。アイデアを将来的に実社会で生かそうと思えば、コスト意識を持つことは大変重要である。自費で製作するとなると、誰でも出来るだけ安く抑えようとするだろう。紙の上で製作費用を計算するのと、実際に製作しながら費用を切り詰めるのとでは気合の入り方が全然違うと思うのである。これも、製作することの持つ力ではないだろうか。

6.製作を通して得たもの

 このように、製作することによって、私たちは多くのものを得ることが出来るが、私がとりわけ主張するのは、やはり、アイデアを目に見える形にすることの重要さである。何故、ここまでこのことにこだわるかというと、製作の前後で、私のアイデアに対する周囲の人の反応、あるいは評価が変わったからである。製作前、光センサー付目覚し時計のアイデアを人に話すと、大抵の人はこのような反応をした。「ふーん。」つまり、大して興味を示さなかったのである。それが徐々に形になっていくと態度が変わってきた。完成してからは、「どうやって使うの?」と声をかけてくる級友がいたし、話の中で光センサー付目覚し時計の名前が出ることもあった(もっとも、これは、私が光センサー付目覚し時計のアイデアを級友によく話していたことによるところが大きいのだが)。結局、人間は目で見えるものが好きなのである。

 また、完成した光センサー付目覚し時計に対して実績を求められた。私は被験者Kさんで実験してみた。一週間使ってもらったところ、「絶対に起きなければいけないから嫌だ」という感想が返ってきた。これには大笑いである。何故なら、それこそ光センサー付目覚まし時計が目指していたものだからだ。

 私は、光センサー付目覚し時計の製作を通して、本当に多くのものを得た。アイデアを目に見える形にすること、アイデアを明確にし、自分のアイデアに自信を持つこと、アイデアをより深いものにしていくこと、これらは全て、製作によって可能になる。そして、同時に、アイデアを他者に認めてもらうため、アイデアを実現するために必要なことである。

 独創力が求められる時代は産業財産権が重要な役割をになう時代でもある。徳山高専では、産業財産権が重視されており、昨年度には6人の学生が特許出願したようである。誰だって自分のアイデアを認めてもらいたい。出来ることなら商品化したい。その思いがあるからこそ、私たちは頭をフル回転させて何とかアイデアを形にしようともがくのだ。特許はそんな夢(アイデア)を実現させるための魔法――24時間どころか20年間も続く。経済力も技術力もない一学生である私は、アイデア実現の夢を託して、光センサー付目覚し時計、『Give Me Light』を特許出願してみるつもりだ。Give Me Light――私に光を!



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